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2007年9月10日 (月)

再会

この頃とにかく忙しくて(2匹の野ザルのせいで)、携帯にかかってきた電話でさえ気付かない。昨夜も子供達を寝かしつけた後でアイロンがけをし、それが終わってやれやれと一服ついた時にふと携帯に目をやってメッセージが入っているのに気が付いた。留守電を聞いていみると、3年以上音沙汰無しだった昔の同僚からだった。もし明日(日曜)空いていればランチでもしないか、と言うものだった。なんて懐かしい。彼女、ロンドンはもう飽きたと6年前に日本に戻って以来楽しそうな生活をしていた風なのだが、こっちに旅行かしら。時計を見ると既に11時過ぎ。ちょっと考えたが、なんせ明日の事だからと電話をしてみた。

今日のランチは勿論ベイカーストリートの中華レストラン。彼女はロンドンに来ると決まってこのレストランに足を運ぶ。中華は一度ここで食べたら他の店には行けないよね〜、と言うのが私達の決まり文句。12時ちょっと過ぎに着いたのだが、既に人の列。ここはいっつも混んでるんだよねえ。と、彼女がやってきた。あー、ちょっと太ったかな。でも相変わらず、私よりも5歳は上なのに気の若いのがそのまま服装にも表れていて、Tシャツにジーンズ、さらっとした黒髪をサングラスでまとめている。「あー、久しぶり、元気だった?ちょっと痩せたんじゃない。」私は矯正ワイヤーを見せて、「これのせいよ。なんせ全然食べられないもんでさ。」うちの子達は、人見知りをしないので、早速彼女にまとわりついている。「あら、下の子は初めてじゃない。こんにちは。」「こんにちは。」下の子も挨拶を返す。上のは私の携帯を取り出してゲームをピコピコ始めた。まったくもう。

しばらく待たされてやっと席に着いた。いきなり昼から彼女はビールを注文。あなたも飲むでしょ、と私もビールと相成る事に。子供連れで昼からビールあおってていいのかいな。ま、いいか。
「で、今回は旅行なの?」「違うわよ、また昔の会社(外資)に戻ったのよ、私。職種は同じだけど、今度は顧客がヨーロッパでね、今アムステルダムよ。と言っても先週移ったばかりだけどね。だから今回は顧客周り。」「えー!全然知らなかったわ。日本がおもしろいって言ってたからてっきり日本に骨を埋めると思ってたけど。」「んー、確かに面白いんだけどねえ、この頃ちょっと飽きてきたかな。何となく彼らのやる事、見なくても予見出来るって感じだし。ミッドタウンにせよ何にせよ、なんかこう、パンチが効いてないっていうか。」この彼女行動的だし、どこか一つに落ち着くって言うのはまだまだ先かもしれないね。一生こんな感じだったりして。
「で、仕事はどうなの。」「うん、面白いよ。まあ日系が相手だからさ、何となく分るでしょ。でも少しヨーロッパに枠を広げようって事になって、日本人の私に白羽の矢が当たったってわけよ。」「じゃあ、ヨーロッパあちこち飛ぶ訳?」「そうね、そんなところ。」
同じ職場で働いていた彼女が今は欧州を飛び回るキャリアで、一方の私は2匹のサル相手に奮闘の毎日。あーあ、この違い。どっと落ち込むよね。とは言え、子持ちの私には彼女のようにフリーに飛び回る事は不可能だもんねえ、いくら仕事があったとしても。
「あ、そう言えば、あそこにいた彼女、覚えている?散々上司にごますってたじゃない。あの人、支店長だかと出来ちゃって、かなりそれが大っぴらに人の口に登ったらしくてさ、東京にまで聞こえちゃって。で、結局左遷よ。今だにあそこにいるみたいだけどね。部長だか課長だかの肩書きで。でもさあ、本当に典型的な日本の会社だよねえ、こんなの。」相変わらず彼女の口から飛び出すのは辛辣なジャパン(カンパニー)バッシング。でも小気味よい。「ロンドンのフラットはどうする予定なの?」彼女は小さいながらもロンドンにフラットを持っていて、それを賃貸していた。日本に帰った時には日本にもマンションを購入しているので、そう考えると結構やり手ではある。「それよそれ。今値段も上がっている事だし、今度のクレジットクランチが不動産にまで影響して来ないうちに売っちゃおうかなとも考えてるんだけど。でも今私ここに住んでいないから、今売ったらかなりの税金を払わなくてはいけないらしくて、ちょっと考えどころよ。賃貸にしてたって税金諸々引いたら大した利益にはならないし、今不動産は値段がすごくいいし、今じゃない、売るとしたら。」楽しいよねー、こうやって経済関係の話をしているのは。大した話じゃないにせよ、身体に緊張感が戻ってくるのが分るもの。

「ところで、浮いた話は無いの、あなたは。」むふふ、と彼女は意味深に笑って、「まあ、色々とよ。」「何よ、それ。こっちにいるの?」「オン、オフ、って感じでさ、こっちにもいるし、日本にもいるわよ。でもねえ、ちょこっと一緒にいてって言うのが一番楽よ。特に日本にいると結婚しなくちゃいけない必要まるで無いもの。そりゃたまには日曜大工みたいなのが必要な時ってあるけど、でもそんなの人を雇えばいいんだし、別に経済的に頼る必要も無し、1人ならどこに行くのも身軽だし、結婚する必要無しよ。」「あらそう。」「だって、考えてもみなよ。そこら辺の男だってさあ、若い時は家事とかやってるような男だったとしても、年取ってくれば縦の物を横にもしなくなるよ。そんなのが原因で家庭内離婚なんてざらじゃない。女は順応性があると思うけど、男はねえ、育った環境から外れないよ。」確かにその通り。「そんなのの為に自分が苦労して年取るのもバカらしくない?だったら恋愛してるだけの方が全然良いわよ。」思いっきりうなずいてみたりして。でも、子供はやっぱり良いものだけどね。グラスと箸でトントンテンテンと騒音を作り出している2人をちらと見る。「まあさ、あなたは子供の面倒見てあげなよ。仕事したいのも分るけど、別にお金に困ってるわけじゃないんでしょ。だったらフリーランスとかでちょこっと仕事するとかで充分よ。このチビちゃんがもう少し大きくなるまではさ。」そうさねえ。

ハイドパークを歩きながら彼女が大きく深呼吸。「あー、こうやってここを歩いていると、帰ってきたなって実感するわ。オランダもいいけど、やっぱりロンドンはリラックスするものがあるよね。これで物価がもう少し安ければいいんだけど。」「本当よ。それと地下鉄がもう少しマトモに走ってくれればね。」「そうそう。なんか昔よりヒドくなった気がする。日本から来てるから余計にそう感じるのかもしれないけど。そういう意味では日本はすごいよね。
ーー今度はピクニックしない?色々持ってきてさ。そうすれば子供達も走り回れるし。どうせ、これからちょくちょくロンドンに来ると思うから。」「今回のスケジュールは?」「月曜の午後に上司がここに到着するから、それで顧客回るでしょ、で水曜にベルギーに入って、オランダに戻るのは木曜午後かな。」彼女のはじけるような雰囲気が人生に前向きなのを見せている。前向きな人間って人を惹き付けるよね。ところどころ白いものが混じり始めた髪でさえ、あまり気にならない位に気が若い。こういう友人を持って私は幸せ者だわ。エネルギーももらわなくっちゃね、少し。サルに対抗する為に。

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